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最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)478号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人橋本勝井の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、原審で主張がなく、従って、原判決のしなかった判断を前提とするものであるから(原一、二審判決は、所論判例にいわゆる売淫料については全然触れていない。)、不適法たるを免れないし、また、同第二点は、単なる訴訟法違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、刑法二四六条二項にいわゆる「財産上不法の利益を得」とは、同法二三六条二項のそれとはその趣を異にし、すべて相手方の意思によって財産上不法の利益を得る場合をいうものである。従って、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払をしなかっただけで足りるものではないと解すべきである。されば、原判決が「原(第一審)判示のような飲食、宿泊をなした後、自動車で帰宅する知人を見送ると申欺いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したこと」をもって代金支払を免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当であるといわなければならない。しかし、第一審判決の確定した本件詐欺事実は「被告人は、所持金なく且代金支払の意思がないにもかかわらず然らざるものの如く装って東京都文京区湯島天神町三ノ三四料亭新戸羽事高田新方に於て昭和二七年九月二〇日から同月二二日迄の間宿泊一回飲食三回をなし同月二二日逃亡してその代金合計三万二千二百九十円の支払を免れたものである」というのであるから、逃亡前すでに高田新を欺罔して、代金三二二九〇円に相当する宿泊、飲食等をしたときに刑法二四六条の詐欺罪が既遂に達したと判示したものと認めることができる。されば逃走して支払を免れた旨の判示は、本件犯罪の成立については結局無用の判示というべく、控訴を棄却した原判決は結局正当である。従って、本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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